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学校スタッフリレーエッセイ「わたぼうし」

20141月】「庚申(こうしん)さんのお社

田中 由美

私の住む地域では、庚申さんのお社が各家を一月ごとに巡回している。移り住んだ当初はそんな風習があるとは知らず、「庚申さんのお社を明日朝持って行きます」と電話を受けた時は訳が分からなかった。世の中に「庚申祭」があることは知っていたが具体的なことは分からない。神事の中で行われている祭事(実際には、仏事でも神事でも行われる祭事らしい)なので神様のお社なのかな?という程度だ。かくしてお社はやってきた(神様には失礼な言い方かもしれないが…)。幅約35cm、高さ50cm、奥行き20㎝程のお社だ。古く黒光りしたお社は一部欠けたところもある。毎年新しくされる注連(しめ)縄だけが青々している。家の床の間に一月鎮座され、次の家へと渡って行かれる。

で、これは一体何の神事なのか?と、地元に長年住む同居人に尋ねたところ、「昔からの風習…」と何の説明もない。そんなことは私にだってわかる。この風習が一体いつ頃からのものなのか実はよくわからないらしい。近所のお年寄りに聞いてみても、「さーなー、嫁に来た時にはもうこげな色だったよ」といった具合だ。色々な神事や行事が簡略化されたり出来なくなったりする中で、この神事は続いている。

昨年12月は、我が家にお社が回ってきた。庚申さんのお社は12月12日、集会所の床の間に座して頂き、氏子を従えて、神主さんが祝詞をあげられ、1年の豊穣のお礼を申し上げる。この祭りは申上祭といって、主に山陰地方で行われる神事のようだ。「庚申祭」について調べてみると(詳しい事は省くが)、「申(さる)」の字から猿田彦(ひこの)尊(みこと)が祭られており、この猿田彦尊は五穀豊穣を司る神として祭られている。なるほど合点がいった。12カ月家々を渡って頂く習慣は、農業で暮らしを立てる人々の五穀豊穣を願う知恵だろうか。

この日翌年の順番がくじ引きで決まる。氏子22軒、月は12カ月。こよりに書かれた数字が当たり月、なにも書いてなければ翌年お社は回ってこない。我が家は外れ。しかし12月の当番である以上、元旦には次家へ渡って頂くよう早くから手配をするのだ。

実は、我が家は農家ではない。五穀豊穣はあまり関係ない。加えて無宗教。それでも地域の神事や風習などには参加することにしている。それは、ご近所付き合いを大切にするためというより、その地域に住む者の役目なのかなと思うのだ。守られてきた風習には意味がある。皆で培ってきた暮らしがそこにある。そこにどんな価値観を持つかは人それぞれだ。年寄りは行事の手順や飾りの方法など次の世代に伝える役割を担い、受け継いだ者はまた次へ伝える…。決して、因習的で排他的な地域の風習ではない。地域で共に暮らす人々の幸せを願う大切なものだと思うのだ。


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